国内製造業の構造転換とグレードアップを目指す中国の国家戦略、「中国智造」(クリエイト・イン・チャイナ)において、通信や機械設備などと並ぶ重要な柱の一つが自動車産業。「NEV(新エネルギー車)化」で世界をリードしたのに続き、「インテリジェント化」でも最先端を走り始めた。「DeepSeek」などの高度AIを搭載した自動運転ソリューションや車内エンターテインメントなどの技術レベルが着実に進化しているが、それだけではなく、低コスト化に伴う中・低価格車種への高度運転支援システムの搭載も、すでに珍しくない状況となり始めた。
最大手のBYD(
01211/
002594)は2月10日、インテリジェント運転戦略を公表する中で、10万元(約206万3000円)以下の低価格モデルを含むすべてのシリーズに高度運転支援システム「天神之眼(God's Eye)」を搭載すると発表。業界ではこれがサプライズとなった。搭載システムのランクは車種別にA、B、Cの3段階に分かれるものの、うちCを搭載する最も低価格のモデルはわずか6万9800元(約144万円)になるという。
このBYDの脅威になり得る中国国内の有力グループは、運転技術のエコシステムを増殖させているファーウェイと、最先端IT企業の小米集団(
01810)であり、いずれも通信設備・機器を主力とする有力ハイテク企業。『香港経済日報』はAI技術の浸透と政策支援を受けたインテリジェント運転ソリューションの拡充が、主要銘柄の再評価につながる」と予想。BYD、小米集団のほかに、インテリジェントシステムに定評のあるEV新興勢力の1社、理想汽車(
02015)を有望視している。
◆上期に各地でモーターショー開催、新型モデルに期待集まる
中国では25年上期に自動車展示会が相次ぎ、3月には広州、南京、4月には北京、上海でそれぞれモーターショーが開催される予定だ。主要メーカーが競うように新型車を公開する見通しだが、その多くはインテリジェント運転機能を備えたモデル。買い替え補助金制度「以旧換新」を利用した買い替え需要の高まりに期待される状況となった。
うち理想汽車は最近、第2号BEV(純電気自動車)となる「i8」の公式画像を公開しており、モルガン・スタンレーは4月の上海モーターショーで発表した後、夏場にも納車を開始するとの見方だ。また、小米集団は27日の新車発表会において、ニューモデル「SU7 Ultra」(予約販売価格約81万5000元)を発表する予定であり、市場の注目度は極めて高い。
NEV業界全体が価格競争の激化や販売成長率の鈍化、販売見通しの後退といったリスクを抱える中、国内外で競争力を発揮した一部企業が優位に立つ見通しだ。
◆BYD、「天神之眼」と海外生産で国内勢をリード
個別銘柄に目を向けると、やはり最有力メーカーは「天神之眼」を発表した最大手のBYD。NOA(ナビゲートオンオートパイロット)の全車種への搭載で競争力をさらに強化し、市場シェアを拡大するとみられる。それだけでなく、同社は海外での生産拠点の展開においても中国勢の先頭を走る存在。24年にはウズベキスタン工場(「宋Plus」など年産5万台)とタイ工場(「海豚、Atto3」など年産5万台)が操業を開始。25年にはブラジル(第1期15万台)、26年初めにはインドネシア(年産15万台)、26年末にはトルコ(同15万台)の工場が相次ぎ稼働を開始する予定となっている。海外への生産移転により、距離や規制など多くの面から欧州その他市場へのアクセスが改善するとの期待が大きい。
シティグループはBYDのNEV販売台数が2025−27年に575万台、703万台、816万台と推移すると予想。売上高については565億元、843億元、992億元と、年率平均32%増を見込む。
一方の小米集団はスマートフォン、EV、IoT家電を融合した「ヒト・クルマ・家」型のエコシステムが強み。EV、スマホともに販売好調であり、補助金制度の「以旧換新」も追い風となっている。今後の目玉は自前の最先端技術を全面搭載した新型EVの「SU7 Ultra」と、新型スマホ「Xiaomi 15 Ultra」であり、雷軍会長兼CEOによれば、この2つは創業15年来で最もハイエンドな製品になるという。直近ではゴールドマン・サックスが同社の目標株価を38HKドルから58HKドルに引き上げ、「買い」の投資判断を付与している。
また、理想汽車はニューモデル「i8」が支援材料。これまでは同社のニューモデル開発の不足が指摘されてきたが、「i8」の予想以上に早い発表が再評価につながる見通しとなった。「i8」の弾丸型のデザインは早くも好評を得ているもよう。同社に関してはドイツ銀行、天風証券がそれぞれ150HKドル、141.5HKドルに設定している。