中国の新エネルギー車市場が政策支援を背景とした約2年間の急拡大期を経て、減速局面を迎えつつある。月間販売台数は依然、倍増ペースを維持しているものの、確実に変化の兆しが見られ、市場はこの先の需給の悪化を警戒し始めた。
中外合弁を含む従来型自動車メーカーにEV新興勢力が加わる形で、メーカー約70社がひしめき合うのが中国の新エネ車業界。これまで業界全体が生産能力の増強に邁進してきただけに、需要が減速すれば、一段の競争激化は避けられそうにない。今後はメーカー各社が明暗を分ける展開となりそうだ。
ただ一方で、新エネ車業界の発展を目指すという中国政府の方針は明確。習近平国家主席が自ら、30年に「炭素排出ピークアウト」、60年に「カーボンニュートラル」を実現するとの目標を世界に発信した経緯があり、党指導部の顔ぶれが変わっても新エネ車推進策は安泰。新エネ車へのシフトという趨勢はもはや規定路線となっている。
サプライチェーン全体を見渡すと、完成車以外に車載用電池や電池材、その他部品メーカーを含め、新エネ車関連の選択肢は多数。現時点では川上の価格決定力が相対的に高く、「過当競争下ではむしろ部品メーカーが有利」との見方も目立つ。
個別では、新エネ車で国内首位の座にあり、EV用など各種電池も手掛けるBYD(
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◆テスラも値下げ、需要一巡で新エネ車需要に陰り
中国の新エネ車販売台数は22年1−9月に前年同期比112%増加し、9月単月では前年同月比94%増。ただ、先進運転支援システム(ADAS)やスマートインテリアを売りとするニューモデルが即、売れ筋となってきた従来の勢いはやや後退。納期の短縮化や値下げ、新車全体に占める新エネ車の割合の頭打ち傾向(4月以降は20%台半ばから後半で推移)が見られる状況となり、EV新興メーカーを含む自動車銘柄は7月初めから一斉に下落する展開となった。
10月下旬にはさらに、米テスラが中国での値下げを発表。人気の小型SUV「モデルY」の実質価格(補助金適用後)を30万元以下に引き下げたことで、競争激化への警戒感がさらに高まる形となっている。
新エネ車を含む新車全体の減速は主に、購入支援措置を受けた前倒しの需要増の反動によるもの。小型車減税が行われた16年に購入した車両の買い替えがほぼ一巡した。ほかに、マクロ経済環境の後退や不動産不況、新型コロナなどに起因する雇用不安なども理由だ。
それでは一体、市況の減速はどの程度なのか。モルガン・スタンレーは新車全体の販売伸び率が22年の前年比4%増から、23年には1.9%増、24年には0.6%減と推移すると予測している。次の上昇サイクルに入るのは25年(2.5%増予想)になるとしながらも、新エネ車や自動運転技術が生み出す追加需要を理由に、2018−20年当時(3年連続マイナス成長)のような不振に陥る可能性は低いとみる。
一方、ゴールドマン・サックスは新エネ車の販売伸び率が23年には20%まで減速するとの見方だ。
ただ、新エネ車へのシフトはすでに不可避であり、引き続き新車販売全体をアウトパフォームするとみられる。米フロスト&サリバンの予測では、中国新車市場に占める新エネ車の割合は26年に50.1%と、ガソリン車などを逆転する見込み。この時点で新エネ車の81%をEVが占める見通しという。
◆EV輸出が有望、海外市場でプレゼンス拡大
中国では約70社が新エネ車生産を手掛けるが、うちEVに特化した新興勢力の代表格は米国・香港に重複上場する蔚来集団(
09866)、小鵬汽車(
09868)、理想汽車(
02015)の3社。ただ、この3社の優位はすでに揺らいでおり、22年1−9月の販売台数ではナタ汽車(NETA)やリープモーター(
09863)といった第2グループが3社を上回った。
業界勢力図はまだまだ流動的であり、今後の市場全体の減速がさらに勝敗を分ける見込み。中国を代表するハイテク企業ファーウェイと組むSERES(金康賽力斯)なども新たに、台風の目となっている。
中国の新エネ車業界について、もう一つ注目されるのはグローバル化だ。国内市場の減速見通しが高まる中、従来型メーカーもEV新興勢力も海外市場の開拓に動き出している。
グローバル化テーマの代表格は最大手のBYD。国内新エネ車市場で30%弱(1−9月)という断トツのシェアを握る同社は、巨大な本国市場を背景に、世界EV市場でも順位を上げ、22年上期にはゼネラル・モーターズ(上汽GM五菱を含む)と独フォルクスワーゲンを抜き、2位に浮上した(調査会社マークラインズ調べ)。7月以降は3カ月連続でテスラを上回り、首位を維持しているという。
BYDは7月に日本の乗用車市場に進出し、10月には欧州への本格進出を発表するなど、ここに来て海外進出に本腰を入れている。10月のパリモーターショーではウクライナ情勢や欧州の景気後退懸念で、地元欧州勢が存在感を欠く中、「世界のEV生産の半分を占める中国メーカー」(France24)がEVパビリオンを席捲。中でもBYDと長城汽車(
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ガソリン車では日欧米の後塵を拝した中国だが、中国汽車工業協会によれば、世界的な半導体不足を逆に追い風に、22年1−8月の自動車輸出でドイツを上回り、日本に次ぐ2位に浮上した。牽引役はやはりEV。海外各国によるEV普及支援策もこの先、中国勢の追い風となりそうだ。