8月には本土A株市場が堅調に推移する一方、本土ネット銘柄の存在感が大きい香港株式市場では調整局面が続いた。主要指標のハンセン指数は8月27日終値ベースで、月初から2.1%下落。中国企業指数は3.0%下げ、ハンセンテック指数は6.8%の下落率となった。これで、年初来の下落率はハンセン指数が6.7%、中国企業指数が16.6%、ハンセンテック指数が25.0%。ハンセン指数は世界の主要指数をアンダーパフォームし、指数構成銘柄のPBR(株価純資産倍率)は0.99倍と、1倍を割り込む水準に沈んだ。
続く9月の香港市場に関しては、底入れ期待がある半面、慎重見通しもかなり強い。『香港経済日報』は相場を左右する4大要素として、◇9月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合、◇中国の規制強化策の動向、◇中国人民銀行による預金準備率の再引き下げの可能性、◇パンデミックと国際政治情勢――を挙げたが、中でも注目されるのは、やはり中国の政策動向。9月も「ネット企業への統制強化」や、教育、医療を含むその他業界への統制リスクが強く意識される展開となりそうだ。
◆アルゴリズム管理を強化、アリババやテンセントのクラウド「利用禁止」か
香港の地元メディアによれば、艾徳証券の陳政深聯席董事は投資家信頼感の萎縮局面が9月も続くと予想。政策リスクを反映させる形で本土ネット銘柄に対する下向きの再評価が進むことは避けられないとし、ハンセン指数が22000ポイントの下値を試す展開もあり得るとしている。一方、独立系の沈慶洪アナリストは、ハンセン指数25000ポイントで、PBRが約1倍になるとし、「これまでの経験に照らすと、遠からず底打ちする。中長期的には魅力が大きい」との見方だ。ただ、政策面の不透明感にも言及し、26200−26300ポイントがハンセン指数の当面の上値抵抗線になると予測している。
このほか、光銀国際研究部の林樵基主管も、「規制強化に関する新たな情報が連日のように報道されており、そのリスクを市場が消化したかは判断しにくい」との見解。当面は500−1000ポイントのレンジで変動し、26500ポイントが上値抵抗線になるとみる。
実際、中国政府によるネット大手への締め付けは今も続いており、標的となる領域は拡大の一途を辿っている。直近では先週末27日、国家インターネット情報弁公室(CAC)がアルゴリズムを活用するテック企業を対象とした新管理規定の草案を発表。ユーザーの中毒化や大量消費を助長するような公序良俗に反する利用法や、国家安全保障上の脅威となる利用法、社会・経済的秩序を混乱させる利用法などを禁じる方針を示した。
さらに複数の本土メディアによれば、天津市政府は27日、地元国有企業に対し、アリババ集団(
09988)やテンセント(
00700)などの民営クラウドサービス会社との契約更新を見送り、遅くても22年9月末までに、「国資雲(国有資本のクラウド)」にデータを移すよう指示する通達を発したという。本土メディアがその後、関連報道を一斉に削除したため、真偽にはやや不透明感が残るが、ロイターの報道によれば、天津市にこの通達を指示したのは国務院。通達にはさらに、「国資雲」が正式に発足したとの記述もあったという。仮にこの情報が事実であれば、ネット企業への締め付けは全方位型といった様相となる。
半面、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が27日、「利上げを急ぐ考えはない」との姿勢を打ち出したことは、ひとまず香港相場の追い風。ただ同時に、同議長は年内のテーパリング(量的緩和の段階的縮小)の開始を支持する考えを示しており、この点も9月以降、引き続き意識されそうだ。
◆政策支援銘柄が焦点に、ハイテク製造業や消費銘柄に注目
なお、ネット企業への統制が続く中、市場の焦点はすでに、政策支援が鮮明な低炭素テーマ株や消費銘柄に移っており、9月もこうしたトレンドが続く見込み。興業証券の張憶東グローバルチーフストラテジストは“政策に起因する底”の初歩的な兆しが見えたと指摘した上で、以下のような投資チャンスが存在するとしている。
◇国策支援下にある新エネルギー車やクリーンエネルギー発電、先進ハードウエアを含むハイテク製造銘柄、◇「共同富裕」時代に順応できる“消費+”銘柄、例えば不動産管理、バイオ医薬、スポーツアパレル、家電など。◇中国経済の新趨勢が長期の追い風となる先進的な金融機関、例えば香港証券取引所(
00388)や証券銘柄。◇バリュー株と化したネット銘柄。このネット銘柄に関しては、相対的に政策のマイナス影響が小さいテンセントや、独禁法適用による恩恵が見込めるEC業界2番手以下のJDドットコム(
09618)、ピン多多(PDD)などが選択肢になり得るとしている。