中国のネット通販最大手、アリババ集団(
09988)傘下の金融旗艦企業であるアント・グループが25日、上海、香港両証券取引所でIPO(新規株式公開)申請を行った。同社はグループのネット決済サービス「アリペイ」や資産運用の「余額宝」、個人の信用評価システム「芝麻信用」などを手掛ける中国最強のフィンテック企業。これまでもIPO計画に関する情報が伝わっていたが、本土・香港相場が上向いているこのタイミングで申請に踏み切った。これに伴い、同社の収益規模や業務指標などが初めて明らかにされている。
上海と香港でのIPOでは、増資後発表済み株式の計10%に当たる新株を発行する計画。調達予定額などは今のところ明らかになっていないが、複数メディアが300億米ドルとの情報を伝えている。仮にそうなれば、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコ(オーバーアロットメント込みで294億米ドル、抜きで256億米ドル)のIPOを上回り、世界最高記録を樹立することになる。調達資金はクロスボーダー決済の拡大や研究開発能力の強化に振り向ける方針という。
◆上期売上高は1.1兆円、企業価値2250億米ドルを目指す
IPOは早ければ9月末にもスタートし、10月中には上海「科創板」と香港にデビューする見込み。上場時の企業価値に関しては「2250億米ドルを目指す」との消息筋情報が伝わっている。『香港経済日報』によると、この企業価値は米ペイパル(PYPL)と並ぶ数字。19年の調整後利益に基づく計算では、ヒストリカルPERで64倍相当となる。仮に20年下期の収益レベルが下期も続いた場合、20年予想PERでは33倍に当たるという。海外の有力決済会社を見ると、米ビザ(V)の時価総額は4008億米ドル(PER39倍)、マスターカード(MA)は3440億米ドル(同47倍)の水準にある。
アントの事業の2本柱は「アリペイ」を筆頭とするデジタル決済・顧客向けサービスと、フィンテックサービスで、後者はマイクロファイナンスや資産運用、保険販売などを含む。今回のIPO申請に伴い、同社の収益や業務指標が初めて公にされたが、それによると、20年上期の売上高は前年同期比38%増の725億元(約1兆1177億円)。税引き前利益は前年同期実績の11倍強に当たる219億元(約3376億円)で、19年通期の181億元を上回った。非IFRS(国際財務報告基準)ベースの利益は242億元。この数字はテンセント(
00700)の20年上期の非IFRS利益(572億元)の4割強に当たる。
主要業務指標を見ると、アリペイのMAU(月間アクティブユーザー)は6月末に7億1100満人と、19年末比で8%増。競合のテンセントの場合、「微信」およびWeChat(海外版)のMAUは同期に計12億600万人だったが、ペイメントの微信支付(WeChatペイ)に限定したMAUは明らかにされていない。また、アリペイの6月末まで12カ月の総支払額は117兆9000億元と、19年末比で6%の伸びだった。
◆株主にシンガポールやマレーシアの政府系投資会社
一方、提出書類によると、IPO前の段階で、アント・グループに対するアリババ集団の持ち株比率は32.6%。これとは別に、アリババ集団の創業者であるジャック・マー氏が34%、アントの井賢棟会長、胡暁明COO、蒋芳非執行董事の3人が各22%ずつ保有する「杭州雲ノ」が、2つのリミテッドパートナー機関(杭州君瀚と杭州君澳:アリババやアントの社員ら40人が権益を保有)を挟み、間接的にアントの50%強を握る。実質的に議決権を握るジャック・マー氏の保有株は計26億7700万株。上場後の持ち株比率は約9%となる見通しだが、同氏は自らの持ち分のうち6億株強を指定公益機関などに寄付する意向を明らかにしている。
アリババ集団およびアント関係者以来の持ち分は16.83%。シンガポール政府投資公社GICやマレーシア政府系ファンド、カナダの年金運用機関、さらにテック分野に特化した米プライベートエクイティ会社シルバーレイクなどが株主として名を連ねていることが分かった。
なお、A株の主幹事は中信建投証券(
06066/
601066)と中国国際金融(
03908)。香港ではシティグループ、JPモルガン・チェース、モルガン・スタンレー、中国国際金融が担当する。アントのIPOが投資家から好反応を得ることはほぼ確実とみられ、香港市場の本土ハイテク株ブームをさらに盛り上げる見込み。今後の計画の詳細発表が待たれる状況となっている。