中国の内閣に当たる国務院は23日、20年1月1日付で、冷凍豚肉やオレンジジュース、一部医薬品、木材・紙製品、自動車部品など859品目の輸入関税を引き下げると発表した。引き下げ後の暫定税率は既存の最恵国税率を下回る水準となる。米中両国が第1段階の合意に達したタイミングでの関税引き下げで、合意内容に含まれる「米国製品の輸入拡大」を促すとともに、中国の積極的な市場開放姿勢を対外的にアピールする狙い。ただ、“各国共栄を目指した自由貿易”支持を強調しつつ、実際には内需の刺激や産業支援など、国内経済へのてこ入れという色合いがかなり鮮明だ。
半導体や医薬品などのハイテク産業支援につながる部品・原料が関税引き下げ(一部は撤廃)の対象品目に含まれ、供給不足が深刻化している豚肉も対象。リスト入りした品目の18年の輸入総額は推計3890億米ドルに上り、18年の全輸入額(2兆1400億米ドル)の18.2%に当たるという。
中国政府はまた、同じく20年1月1日付で、自由貿易協定を結んでいる23カ国・地域(オーストラリア、ニュージーランド、韓国、アイスランド、パキスタンなど)の8000種余りに関しても、輸入関税の追加引き下げを行う方針を明らかにしている。さらに20年7月1日には、IT製品176品目を対象とした最恵国税率の第5次引き下げを実施する計画。これと合わせ、一部IT製品の輸入暫定税率を調整する方針を示しており、今後も輸入税率引き下げの動きが続く見通しだ。
◆冷凍豚肉の関税率引き下げ、旧正月に向け供給不足緩和へ
今回の輸入関税引き下げで、注目された品目の一つが冷凍豚肉。1月1日付で関税率が12%から8%に引き下げられる運びとなり、これによりある程度、国内の豚肉価格の急騰を抑制できる可能性が出てきた。中国ではアフリカ豚コレラ(ASF)のまん延を受けた供給不足で豚肉価格が急騰しており、直近の11月時点で前年同月比110%高。前月比ではやや落ち着く兆しを見せたが、12月に入って再び騰勢に転じたとの情報があり、この先、20年1月下旬の旧正月に向け、状況がさらに深刻化するとの警戒感が高まっていた。豚肉の高騰はすでに、牛肉・羊肉・鶏肉・鴨肉といった代替品にも波及し、11月のCPI(消費者物価指数)上昇率は4.5%と、約8年以来の高水準を記録している。
一方、もう一つ注目されるのは医薬品原料の関税撤廃だ。糖尿病治療薬の原料や喘息治療用のアルカロイド(窒素を含む塩基性の植物成分)の輸入関税を1月1日付でゼロとする。中国国内では糖尿病、ぜんそくの罹患率が上昇傾向にあり、治療薬需要は増加の一途。原料を対象とした今回のゼロ関税化により、医療コストの軽減が可能となる。本土メディアは主に「市民への恩恵」を強調しているが、ほかに国内での新薬開発を後押しする狙いもあるもよう。“世界最大の養老院”とも揶揄される中国は、本格的な高齢化への対応を強化しつつあり、今後もこの分野へのてこ入れが続く見通しだ。ちなみに、中国は18年5月、アルカロイド薬物および中国特産薬物以外の全薬品類の輸入関税を取り消し、その後、抗がん剤および希少疾患薬の原料(原薬)に関しても輸入関税を撤廃していた。
◆原料部品の関税引き下げ、半導体・航空・自動車・バイオなどにプラス
また、政府は今回、製造業を支援するため、設備や部品、原料の関税率を引き下げる。半導体検査装置やマルチコンポーネント IC(MCO)ストレージ、鉄ニオブ合金(フェロニオブ)、車両自動ギアボックス用のトルクコンバーターおよびスプールバルブ、培地(微生物や生物組織などの培養用品)などが対象。こうした原料・部品の関税引き下げは、主に半導体、航空宇宙、自動車、通信、電子、バイオなど、幅広くハイテクセクターにとっての恩恵となる。
このほか、150種余りの木材・紙製品も輸入関税引き下げの対象となったが、これは国内の生態環境の保護などとともに、資源輸入の促進が目的であり、輸入廃棄物管理目録の調整と足並みを揃えた措置。廃棄物関連では、タングステン廃棄物およびニオブ廃棄物(スクラップを含む)の輸入関税が、1月1日付でゼロとなる。
一方、今回の関税率引き下げの目的の一つとして「内需刺激」が指摘されているが、この点からリストを見ると、例えば冷凍のタラやカニ、ウイスキー、チーズ、黒真珠、衣類などの食品・消費品が関連品目といえそうだ。中国ではまだ、中産階級を中心とした消費潜在力が大きく、『香港経済日報』は、20年には輸入品需要の拡大に伴う富裕中産層の消費拡大が国内景気の牽引役となる可能性に言及している。