中国本土の映画興行収入は16年に前年比3.7%増の457億1200万元と、業界が年初に見込んだ600億元を大きく下回った。15年まで5年連続で年率30%超の伸びを維持し、15年には同48.7%増を記録したが、16年には大きく減速した格好。特に下期に話題作を欠いたことなどが影響したという。ただ、17年には話題作の公開が相次ぐとみられ、興行収入の伸びが再び加速するとの期待が大きい。『香港経済日報』は香港上場の映画関連銘柄の中で、利益見通しが相対的に明確な映画館(シネコン)運営銘柄を有力視。星美控股(
00198)、IMAXチャイナ(
01970)を選好している。
中国の映画興行収入が16年に伸び悩んだのは、いわゆる良作や話題作が少なかったことが原因とされるが、ほかにネット企業によるチケット代“補助”が減ったことも大きく響いたもようだ。ネット企業はこれまで、自社プラットフォームへのユーザー取り込みを目的に、40−50元の映画チケットを9.9元、5元などの格安価格で販売するという採算度外視のビジネスを続けてきたが、市場の規範化が進むに連れてこうした格安チケットの流通が減少。これに伴い、正規価格で映画を鑑賞しなければならなくなった消費者が、より慎重に作品を選ぶようになった。こうした状況は特に、純国産映画の逆風になったという。
16年の興行収入ランキングを見ると、トップ10に入った純国産映画はわずか2作品。ランキングのトップに立ったのはチャウ・シンチー監督の香港・本土合作コメディー『美人魚』(邦題:人魚姫)で、年間興行収入は33億9200万元。以下、2−4位までは米国映画の『ズートピア』、『ウォークラフト』、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』が続いた。
◆中国のスクリーン数、米国を抜いて“世界最多”に
一方、16年とは異なり、17年には話題作の公開が相次ぐ運びとなっている。建銀国際のリポートによれば、IMAX(カナダIMAX社が開発した次世代型プレミアムシアターシステム)仕様の話題作が四半期ごとに投入される予定。1−3月期には『バイオハザード:ザ・ファイナル』『LEGOムービー』、4−6月には『パイレーツ・オブ・カリビアン6(邦題:最後の海賊)』『トランスフォーマー5』、7−9月期には『レゴニンジャゴー』『スパイダーマン:ホームカミング』、10−12月期には『ジャスティス・リーグ』『スターウォーズ8』が相次いで公開される可能性が高く、こうした充実のラインナップが17年の興行収入の伸びを後押しする見通しという。
なお、ハードウエアの部分に関しては、中国はすでに米国を超えつつある。国家新聞出版広電総局の統計によれば、中国国内の映画スクリーン数は16年12月20日時点で4万917。建銀国際は17年の4万超えを予想していたが、実際にはそれより1年早い大台超えとなった。一方の米国は16年半ばに4万759。統計時期が異なるため、米中の数字の単純比較はできないものの、米国のスクリーン数の伸びが鈍化していることを考えれば、中国は遠からずスクリーン数で世界最大となりそうだ。
◆星美控股やIMAXチャイナが有力
香港上場銘柄に目を向けると、映画関連株は数こそ少なくないものの、中小銘柄が大半を占める。時価総額で見ると、上位から順にアリババ・ピクチャーズ(
01060)、IMAXチャイナ、星美控股、中国3D数碼娯楽(
08078)、橙天嘉禾(
01132)、邵氏兄弟控股(
00953)、天馬影視文化(
01326)、星美文化集団(
02366)、比高集団(
08220)など。うちアリババ・ピクチャーズは映画制作・配給を手掛け、IMAXチャイナや星美控股は映画館(シネコン)運営などを主力とする。『香港経済日報』は映画制作や映画投資より、映画館運営事業の利益見通しがより明確とみて、星美控股をトップピック銘柄に選定。IMAXチャイナを次の有力な選択肢としている。
星美控股は16年6月中間期に前年同期比31%増収、44%増益を達成するなど業績好調。既存の映画館事業の堅調に加え、O2O(オンライン・ツー・オフライン)プラットフォームといった新規事業の成長余力も大きく、ブルームバーグのコンセンサスによれば、16年には前年比55%増収、68%増益を達成する見込み。17年に関しても前年予想比で38%増収、48%増益が見込めるという。傘下のシネコン数は16年6月末時点で250カ所(1700スクリーン)だが、積極的な買収もあり、16年末には300カ所を超える見通し。本土映画市場における同社シェアは15年に約3%だったが、聯昌国際は「18年には5%超に上向く」との見方だ。
一方、カナダIMAX社の子会社であるIMAXチャイナは、映画館向けのIMAXデジタルシアター・システムの設計、機材調達、据え付けなどを主力としており、本土消費者の高級シアター志向が追い風。大和証券キャピタル・マーケッツによれば、IMAXシアター数は17年に20%増加する見通しという。また、親会社のカナダIMAXは米グーグルや映画制作会社らと組んでVR(仮想現実)ソリューションの開発を進めており、この先予想されるVRブームも同社の追い風となりそうだ。大和証券キャピタル・マーケッツは12月9日のリポートで、日本を除くアジア太平洋地区の中小株推奨銘柄リストを発表したが(全体で37銘柄、香港上場銘柄は10銘柄)、その一つがIMAXチャイナ。目標株価44HKドルで、「買い」を推奨している。