少子高齢化が急加速する中、中国当局が新たな対策に動き出している。最近では財政部が招集した「全国金融工作会議」(12月23−24日)が、人口の発展を支援するための政策体系の整備を進めるなどの方針を確認した。こうした政策が実際にどの程度、出生数の押し上げに寄与するかは不透明だが、政策的な支援は出産関連サービスや乳幼児用品、教育関連銘柄にとっての追い風。『香港経済日報』は香港上場の乳業大手、中国蒙牛乳業(
02319)や、粉ミルク最大手の中国飛鶴(
06186)、生殖医療の錦欣生殖医療(
01951)、教育の新東方教育科技(
09901)などを注目銘柄としてピックアップしている。
中国でも少子化は深刻。「中国統計年鑑2024」によれば、23年の出生率は6.4%(人口1000人当たりの出生数)にとどまり、人口の自然増加率はマイナス1.5%に沈んだ。人口が減少するのは2年連続であり、22年のマイナス0.6%から下げ幅を広げる形となった。国連は24年版の「世界人口予測」で、中国の出生数予測を下方修正。30年の予測を1002万人から866万人に引き上げ、50年に関しても905万人から737万人への下方修正を行っている。
少子化を加速させているとみられる最大の要因は子育て費用の高騰であり、教育、住宅、雇用に関する社会・経済政策が出産という意志決定に影響しているというのが当局の認識だ。全国財政工作会議はこうした現状を踏まえ、国民生活の保障と改善への支援を確認。優先的な雇用の改善や、教育を通じた強国建設への支援、人口の発展を支援するための政策体系の整備、社会保障網の強化。市民にとって切迫した問題への対処を行うなどの方針を明らかにしている。
◆育児休暇制度や助成金、不妊治療を支援
また、これより前の24年10月末には、国務院弁公庁が出生・育児支援と育児しやすい社会の建設に向けた新措置を発表。乳幼児養育サービスへの支援、教育、住居、就業などに関する支援措置を強化する方針を表明した。育児休暇制度や助成金制度の整備を地方当局に指示。さらに不妊治療サービスの強化にも言及し、適切な無痛分娩への施術や不妊治療などを医療保険の適用範囲に組み込むよう指示するとした。
さらに、子育ての費用負担の軽減に関しては、住宅支援政策を強化し、多子世帯の住宅購入支援の拡大を奨励し、雇用主に対しては柔軟な就業時間の設定や在宅勤務などの措置を導入するよう要請。加えて、子育てに前向きな社会的な雰囲気の形成が必要との見解を示し、小中学校からの教育課程に、結婚や生育、さらには少子化問題に関するカリキュラムを組み込む方針を明らかにしている。
◆粉ミルクの中国飛鶴や不妊治療の錦欣生殖医療に注目
個別銘柄に目を向けると、少子化対策の恩恵銘柄の一つは、乳製品最大手の中国蒙牛乳業。消費刺激政策の下、同社の業績は回復基調にあり、この先さらに上向きに推移するとみられる。ブルームバーグの市場コンセンサス予想では、24年の減益決算の後、25年、26年には前年比で2桁の利益成長を達成する見通しという。ゴールドマン・サックスは直近リポートで、向こう3年の粗利益率と運営効率の改善見通しに言及し、製品の多元化と利益能力の向上が期待できると指摘。目標株価19.9HKドルで、「買い」推奨を継続している。
一方、国内粉ミルク市場で5年連続トップシェアを維持している中国飛鶴は、強力な販売チャネルが強み。競争激化により中小企業が撤退する中、この先一段の市場シェアの拡大が見込めるという(24年上期の市場シェアは19.2%)。24年上期決算は前年同期比3.7%増収、10.5%増益と、業界全体をアウトパフォーム。製品ミックスの優良化による粗利益率の改善(67.9%へ2.6ポイント上昇)が目を引いた。ブルームバーグの市場コンセンサス予想では、2024−26年に年率平均11.2%の増益が見込まれている。
また、中国飛鶴は高配当という点でも魅力。23年には配当性向を46%から69%に引き上げたが、24年中間期の配当性向は72%へさらに上昇。市場予想では、24日に終値に基づく24年の予想配当利回りは6.2%。25年、26年予想では6.9%、7.5%になるという。
このほか、『香港経済日報』は教育セクターの中で、新東方教育科技を少子化対策恩恵銘柄としてピックアップしている。同社は5月末現在、74都市に81校と944の学習中心を展開する大手。本土の教育市場では21年7月、政府が課外学習事業(学習塾や個別学習指導)を標的とした厳しい規制を発表し、業界に激震が走った経緯があり、同社の収益はまだ、それ以前のレベルを回復していない。ただ、価格はすでに規制前に戻っており、利益率は過去最高レベルにある。
もう1社、不妊治療クリニックを運営する錦欣生殖医療にも少子化対策の恩恵が及ぶ見通しだ。結婚・出産年齢がともに上昇する中、不妊治療サービス需要は高まっているもよう。同社はブランドや技術、人材などの点で競争力が高く、民営企業の中ではトップシェアを握る。同社にとっては不妊治療を保険適用対象とする政策がプラス。ブルームバーグの市場コンセンサス予想では、24年に3%の減益となった後、25年、26年には16%、19%の利益成長を達成する見通しとなっている。