中国政府当局は24日、金融緩和、不動産支援、株式市場支援という3方位を網羅した異例の景気対策パッケージを発表した。市場は事前に、利下げを含む金融緩和を予想していたが、不動産、株式市場対策を合わせた広範かつ強力な政策パッケージの発表はポジティブサプライズ。同日の本土A株市場、香港市場では主要株価指標がいずれも前日比4%を超えて値上がりし、うち香港ハンセン指数は約4カ月ぶりに19000ポイントの大台を回復した。証券、保険、銀行セクターが一斉に買われ、招商銀行(
03968)、中国太平洋保険(
02601)、中国国際金融(
03908)、中信証券(
06030)が10%以上急騰する展開だった。
24日の政策会見の場に顔を揃えたのは、中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝行長、中国証券監督管理委員会(CSRC)の呉清主席、国家金融監督管理総局の李雲沢局長。金融緩和策においてはまず、「預金準備率を近く0.5%引き下げる」「中期貸出制度(MLF)金利を0.3%引き下げる」などの方針が明らかになっている。うち預金準備率については、市中の流動性を見ながら、必要であれば年内にさらに0.25−0.5%の追加引き下げを行う意向。また、人民銀はMLF金利の引き下げを受け、事実上の政策金利である最優遇金利(ローンプライムレート、LPR)と預金金利が0.2−0.5%低下するとの見通しを示している。
ゴールドマン・サックスは金利と預金準備率のほぼ同タイミングでの引き下げについて、景気の悪化に対する政府指導部の警戒感の表れだと指摘。人民銀が予告した通り、年内にさらに0.25%の預金準備率の再引き下げがあり得るとみている。
◆2軒目の住宅購入時の頭金比率、25%から15%に引き下げ
一方、不動産支援策では、既存の住宅ローン金利を平均0.5%引き下げるとともに、頭金比率を全国で統一。さらに2軒目の住宅購入時の頭金比率を、これまでの最低25%から15%に引き下げる方針が示された。この15%という下限は2軒目取得時としては、過去最も低い頭金比率。また、既存の住宅ローン金利の引き下げ効果について、人民銀の潘行長は「約1億5000万人に恩恵が及び、総額1500億元の利息支出の低減につながる」との数字を示している。
もう一つ、株式市場支援策においては、当局は新たな金融ツールを導入。証券会社・ファンド・保険会社による株式購入への支援を目的としたスワップ制度の創設に加え、上場企業の自社株買いや大株主の保有株買い増し向けに特化した再貸出制度を創設する方針。人民銀は第1段階として、8000億元の流動性支援を実施する意向という。
◆24日に急伸の本土・香港株式市場、一段の上値に期待
今回発表された施策による株式市場の押し上げ効果は当面続くとみられ、一段の上値を予想する向きが優勢だ。HSBCグローバルリサーチは銀行銘柄をはじめとする国有企業株の値上がりで、中国企業指数の現金リターンが24年に5%を超える可能性を指摘。中国株に対する「買い増し」のレーティングを維持し、ハンセン指数と中国企業指数の25年目標を21860ポイント、7860ポイントに上方修正した。これは24日終値比で約15%の上値に当たる。
KGIアジアの温傑投資策略部主管は、米国の大幅利下げと香港のプライムレート引き下げに、中国本土の株式市場支援策が加わる形となり、相場への支援効果は大きいとの見解。この3つの要素を考えれば、ハンセン指数の700ポイントの急伸は「正常」な現象であるとした。現時点ではまだ、ブル相場入りは確定的ではないと前置きしつつも、「マイナス要因が出現しなければ、さらに5−10%の上値が期待できる」としている。
◆政府GDP目標の達成には不足か、「財政・産業政策の追加」必要論も
一方、不動産支援策の効果については楽観一辺倒という雰囲気ではなく、外資系を中心に、本格的な市況回復効果を疑問視する声もある。モルガン・スタンレーは2軒目取得時の住宅ローン頭金比率の引き下げで、10−12月期の住宅販売が持ち直す可能性を指摘しつつも、マクロ経済が依然弱い中では住民の借入れ意欲は低く、プラス効果が短期的にとどまる可能性もあるとした。キャピタル・エコノミクスの中国経済主管も、頭金比率引き下げによる影響は限定的かつ短期的との見方だ。
また、3方位を組み合わせた今回の大型支援策は確かにポジティブサプライズだったが、これで政府の24年のGDP成長目標「前年比5%前後」を達成できるか、依然不透明感が残る。デフレ圧力の高まりや先行き信頼感の不足を理由に、目標達成に懐疑的な見方がくすぶり、財政政策面での追加支援に期待する声が多い。ブルームバーグ・エコノミクスは今回の施策により、24年のGDP成長率が5%に近づく可能性が高まったとしながらも、「人民銀が十分な“弾薬”を用意しても、市場がその弾薬を実際に使うかどうか」を疑問視。内需の弱さと信頼度不足を挽回できるかがカギを握るとし、そのためには財政政策や産業政策、地方政策をさらにパッケージに組み込む必要があるとしている。