中国の海運・港湾セクターに対する見通しがここに来て上向いており、『香港経済日報』は10−12月の投資テーマの一つとして注目している。業況の改善に加え、自社株買いへの期待が背景。中国人民銀行は18日、株式市場支援策の一環として、「上場企業の自社株買い(大株主による株式追加取得を含む)を使途とする再融資」制度を創設し、第1弾として3000億元の枠を設定したが、複数の海運企業がこの枠を取得したことが明らかになっている。
香港上場の個別銘柄では、1−9月期の好決算見通し(前年同期比64%の増益見通し)を発表済みで、かつ自社株買いを計画しているコンテナ大手の中遠海運控股(
01919/
601919)が最有力。同紙はほかに、同じくコンテナ船社の海豊国際(
01308)や港湾運営大手の招商局港口控股(
00144)が優先的な選択肢になるとしている。
◆A株市場支援策も相次ぐ、23社が自社株買い融資獲得
本土A株市場と同様、香港株式市場の最近のパフォーマンスを支えているのはひとえに、中国の政策動向。政府当局は9月下旬以降、広範な景気テコ入れ策を発表したが、その一つが株式市場の支援策。具体策として、「SFISF」(証券会社、ファンド、保険会社スワップ・ファシリティ)などとともに、自社株買い支援用の再融資制度を発足させた。年利は1.75%で、基本的には期間1年の融資となる。
この枠をめぐっては、すでにA株企業23社が銀行側と契約済み。セクター別では海運、港湾、石油・石油加工、倉庫・物流などが中心であり、うち海運・港湾銘柄には、中国遠洋海運集団傘下の中遠海運控股、中遠海運能源運輸(
01138/
600026)、中遠海運発展(
02866/
601866)や、招商局集団傘下の蛇口工業区控股(
001979)、招商局能源運輸(
601872)などが含まれている。
◆コンテナ需要は堅調、マースクが利益見通しさらに増額修正
こうした政策関連期待のほか、コンテナ輸送セクターに関しては2つの支援材料がある。うち一つは需要の堅調。デンマークのコンテナ最大手、A.P.モラー・マースクが示した7−9月期の売上高に関するガイダンスは158億米ドルと、市場予想を上回る水準。同社はさらに21日、ここ6カ月間で4度目となる24年通期決算見通しの上方修正を発表した。需要の堅調と紅海情勢の混乱の長期化を理由に、EBITDA(金利・税引き・償却前利益)などを増額修正し、コンテナ輸送量については約6%増と、従来予想(4−6%)の上限に達する見通しを示している。
実際、紅海を避けたアフリカ南端(喜望峰)への迂回が続く中、運賃は上昇傾向にあり、マースクがこのほど発表した11月の欧州航路の値上げ幅は、市場の予想を上回る数字。独ハパッグ・ロイドやMSC(メディタレニアン・シッピング・カンパニー)などの同業大手もこれに追随し、うちMSCは60%弱の値上げを発表している。こうした欧州航路のコンテナ運賃の上昇は業界全体の収益性の改善につながる見通しだ。
◆中遠海運控股、欧州航路の運賃上昇がプラス
個別の海運・港湾銘柄では、中遠海運控股が有力。同社はA株とH株の自社株買いを計画しており、うちA株に関しては買い入れ規模を最大20億元とする方針。同社はまた、コンテナ市況の改善が追い風となる代表的な銘柄であり、欧州航路(売上構成比23%)の運賃の上昇も明らかにプラスとなる。ブルームバーグの最新の市場コンセンサス予想では、24年通期の純利益は前年比103%増の484億元に上る見込み。7月初めの市場予想(270億元)から急増した。同社は高配当という点でも魅力。24年のEPSを市場予想通りの1.451元と仮定し、かつ同社が配当性向を過去2年と同じ50%に維持した場合、24年の配当利回りは13.2%に達する計算となる。
また、アジア航路にほぼ特化している海豊国際に関しては、同地域のコンテナ市況の堅調を受けた業績の上振れと、特別配当の実施が支援材料となる。モルガン・スタンレーは24年の力強いキャッシュフローを理由に、26年まで特別配当の実施が続くと予想。配当性向が現在の70%から、95%に上向く可能性を指摘している。
一方、港湾銘柄の招商局港口控股にとっては、中国政府の景気刺激策を受けたコンテナ取扱量の拡大見通しが支援材料。24年上期には国内外がそろって堅調で、同社全体の取扱量は前年同期比8%増。33%の増益を達成した。UBSは米国による中国製品の関税引き上げによる影響は限定的とし、25年の値上げの可能性を指摘。1株当たり0.25HKドルの中間配当(14%の増配)は予想以上だったとした上で、同社経営陣がROE(株主資本利益率)の改善に向けた増配方針を示していることから、配当金のさらなる引き上げもあり得るとした。市場予想によれば、24年通期には前年比23%の増益見通しが示されている。