香港株式市場では本土系物流銘柄に対する楽観見通しが広がっている。年初からの消費の回復傾向に加え、中国経済が打ち出した「低空経済」の発展政策が背景。物流セクターは「低空経済」の主要テーマ株に位置付けられ、この先のドローン運用の可能性に対する期待が高まった。また、深センA株上場の宅配大手である申通快逓(
002468)の24年1−3月期の好決算とその後の株価急伸も、物流セクターに対する楽観見通しを後押ししている要因。ただ、個別銘柄が明暗を分ける傾向にあり、投資を考える上では、銘柄選択の重要性が増している。
中国では最近、「低空経済」が話題だが、これは23年12月の中央経済工作会議において、戦略的新興産業に位置付けられた新たな分野。24年3月には、李強首相が政府活動報告に登場させ、民間の航空宇宙産業の発展に言及した部分で、この低空経済に言及した。24年は早くも、低空経済の「商用化元年」となる見通しという。
低空経済とは「低高度空域(基本的に高度1000メートル以内)での有人・無人航空機による飛行活動とその関連分野を総合的に発展させた経済形態」を指し、具体的な事例はドローンを活用した物流や、海洋・気象・地形など各種の測量・探査、農業、科学研究・教育、医療救援活動など多種多様。ヒトを運ぶ空飛ぶタクシーもその一つとなる。
◆戦略的新興産業「低空経済」、物流ドローンが最初の試験領域に
深セン市などではすでに、ドローンを使った出前や、輸血用血液の輸送が行われており、大幅な時短を実現させているという。また、深センを含む広東省の湾岸エリアでは、都市間を結ぶドローンの配達活動も始動。深セン−珠海間の所要時間が陸上輸送に比べ5割以上短縮されたとの情報もある。
この低空経済に関連して、交通部はスマート交通試験点の新たなリストを公表したが、うち一つがドローン貨物輸送プロジェクト。開源証券は「低高度空域の解放」による物流セクターへの恩恵を指摘。まずは物流ドローンが、低空経済における最初の試験領域となる可能性を指摘している。
ちなみに中国本土のドローン(無人機)保有数は昨年末時点で126万7000機を数え、前年比で32.2%増。操縦免許の保有者数は19万4000人。民間ドローンの累計飛行時間数は前年比11.8%増の2311万時間に上った。工業情報化部の推計によれば、23年の低空経済は5059億元規模。26年には1兆元を突破する見通しという。
◆輸出の回復傾向やネット通販利用の拡大が追い風に
物流業界は宅配、海上・航空貨物輸送、越境物流サービスなど幅広い事業分野を含むが、中国物流購聯合会が算出している総合景気指数の「中国物流業景気指数」は24年3月に51.5と、前月比4.4ポイント上昇した。うち新規受注指数は53.4と1.2ポイント改善している。旧正月休暇明けの3月は例年、同指数が上昇する傾向にあるが、1−3月期で見ても、業務総量指数が前年同期比0.3ポイント上昇。物流の業種ごとに軒並み回復傾向を示した。
ただ、物流銘柄の年初からのパフォーマンスは大きく明暗を分け、招商局集団傘下の総合物流グループ、シノトランス(
00598)が33%高、自動車物流の重慶長安民生物流(
01292)が24%高。半面、宅配最大手の中通快逓(
02057)は6%の上昇にとどまり、東南アジア市場に強みを持つ宅配大手の極兔速逓(
01519)は54%の大幅安だった。主に業務形態と輸送需要の差異が影響したもようだ。
業態別では、中国の輸出回復の恩恵を受け、海上・航空貨物のフォワーディング需要が拡大し、この分野の最大手であるシノトランスの追い風となっている。半面、本土市場での物流事業の比率が高い企業は、輸出の復調による恩恵を受けにくいのが現状だ。
一方の貨物輸送需要に関していえば、宅配セクターが有利。ネット通販利用のさらなる拡大が追い風となっているためで、1−3月期の国内全体の宅配取扱個数は前年同期比25.2%増加した。今後もライブコマースの活況がネット通販利用の伸びを支える見込み。リサーチ会社の艾瑞諮詢はライブコマース市場の規模について、2023−26年に年率平均18%の伸びを見込む。価格競争が引き続き懸念材料だが、今後は自動化が利益率の改善を後押しする見通しという。
『香港経済日報』は個別では、いずれも業界最大手である中通快逓と、シノトランスが有望との見方だ。中通快逓は23年まで8年連続で業界首位を維持しており、同年の市場シェア(取扱個数)は22.9%。同紙はこの先、まずは180HKドルを目指す展開を見込む(25日終値は166.7HKドル)。シノトランスに関しては、中国国際金融が強気であり、目標株価を4.8HKドルに設定している(25日終値は4.35HKドル)。