米長期金利が4.8%と、16年ぶり高水準を記録する中、香港株式市場では予想配当利回りが10%を超えた本土銀行銘柄が焦点の一つとなっている。不安定な相場展開が続く中、ディフェンシブ銘柄が注目されているのは今に始まったことではないが、安全資産の1年物米国債の利回りが5.5%に達し、米ドルとの通貨の連動制を取る香港の定期預金金利も上昇(工銀亜洲の3カ月定期預金金利は4.9%)。それを明確に上回る“高配当”のハードルが上昇する中で、「10%超え」が注目された。
本土系の有力企業では、石油メジャーや通信キャリアが高配当銘柄の代表格だが、最近の株価の調整を受け、銀行銘柄の予想配当利回りは今やそれ以上の水準。4日終値ベースでは、主要8行のうち2行の23年予想配当利回りが10%を突破(ブルームバーグの市場コンセンサス予想に基づく)。24年予想では3行が10%を超えた。
◆不動産と「城投債」のデフォルト懸念が重し
本土銀行株の最近の低調なパフォーマンスは、不動産や「城投債」(地方政府が融資平台を通じて発行した債券)のデフォルト懸念に加え、純金利マージン(NIM)の縮小圧力、元安圧力(大量の人民元資産を保有する銀行には不利)による利益見通しの悪化などが理由だ。
このうち不動産不況は政策支援の強化にもかかわらず、続いているもよう。不動産調査会社の克而瑞によれば、デベロッパー上位100社の9月の物件成約額は計4043億元と、5年来の最低を記録。資金難の改善が見通せない状況にある。『香港経済日報』はさらに、業績が仮に下押しした場合に、銀行銘柄の配当に影響が出る可能性を指摘。10%という予想配当利回りのディフェンシブ力が揺らぐこともあり得る中で、一段の利回りの上昇が期待されるとした。
同紙はその上で、銀行セクターの支援材料として、「政策支援」と「経営環境の改善の兆し」を挙げ、中国建設銀行(
00939/
601939)や中信銀行(
00998/
601998)に注目している。
◆不動産リスク継続、経営環境に改善の兆しも
このうち政策支援に関して、まずプラスとなるのが6月に続く9月初めの預金金利の引き下げ。これにより、NIMの縮小圧力が和らいだ。中国国際金融は9月の預金金利の引き下げで、23年通期利益の3%の上乗せ効果が見込めるとし、特に大手行への恩恵を予想している。
また、中国人民銀行は先ごろ発表した4−6月の貨幣政策執行報告に、初めて「商業銀行は安定的な経営を維持し、金融リスクを防止するため、合理的な利益およびNIMの水準を維持するべきである」との文言を盛り込んだ。こうした政策方針の下、銀行銘柄は適正範囲の収益力を維持する可能性が高い。
もう一つ、経営環境が改善の兆しを見せていることが銀行銘柄にとってプラス。マクロ経済の改善や投資、消費心理の持ち直しが追い風となり、与信統計が回復傾向。銀行の人民元貸付残高の月間増加額は8月に1兆3600億元を記録。前月の3500億元弱から急拡大し、8月としては過去最多を記録している。
◆建設銀行が4大商銀で最も高配当、ROAとROEも最高
同紙は個別では、中国建設銀行と中国銀行(
03988/
601988)、中信銀行に注目している。うち建設銀行の4日終値は4.26HKドル。ブルームバーグの市場予想に基づく23年予想配当利回りは10.1%と、4大国有商銀で最も高い。また、4大商銀のROA(総資産利益率)とROE(株主資本利益率)は上期にそろって低下したが、建設銀行は最も軽傷。それぞれ0.92%、11.95%に踏みとどまり、4銘柄の中で最も高かった。
同じく4大商銀の一角、中国銀行は23年予想配当利回りが9.6%と、4銘柄の中では建設銀行に次いで高く、予想PBR(株価純資産倍率)は0.33倍と最も割安となる。4大商銀以外の主要銀行を含めた場合には、23年予想配当利回りが最も高いのは中信銀行の10.7%で、24年予想は11.4%。ただ、中信銀行の場合は不動産セクター向け融資の比重が高く、不良債権リスクが相対的に高い。
モルガン・スタンレーは9月末のリポートで、銀行11銘柄の目標株価を一斉に引き下げた。4大商銀や中国郵政儲蓄銀行(
01658/
601658)、招商銀行(
03968/
600036)、中国民生銀行(
01988/
600016)に対しては引き続き、強気の投資判断を付与。中信銀行に関しては「イコールウエート」(目標株価4.1HKドル)の中立判断を継続している。中国建設銀行、中国銀行に対してはそれぞれ、最新目標株価を6.4HKドル、3.8HKドルに設定している。