本土・香港株式市場では引き続き、ChatGPT関連株が投資テーマとなっているが、ここに来て焦点が当たっているのが通信キャリアだ。チャイナ・テレコム(
00728/
601728)、チャイナ・モバイル(
00941/
600941)、チャイナ・ユニコム(
00762)という3大キャリアはもともと、高配当で知られるディフェンシブ銘柄だが、ここ数年はクラウドコンピューティングなどの新規ビジネスも成長中。これに、ChatGPTテーマという新たな魅力が加わる形となった。仮にAIチャットボットの分野で実際に成果を挙げれば、株価の再評価が加速する見通しだ。
ChatGPTはテスラのイーロン・マスクCEOらが創設し、マイクロソフト社が支援するOpenAIが昨年11月に発表したAI会話型ボット。高度な質問を理解し、驚くほど自然なテキスト回答を返す。リクエストに応じて小説を書くこともでき、表計算ソフトの関数やプログラミング言語の記述も教えてくれる。
本土A株市場のChatGPTテーマ株は北京海天瑞声科技(688787)、雲縦科技集団(688327)、拓爾思信息技術(300229)など多様だが、香港ではChatGPT類似アプリ「文心一言」(ERNIE Bot)を3月にも投入する見通しの百度(
09888)が筆頭格。テンセント(
00700)や快手科技(
01024)、小米集団(
01810)、JDドットコム(
09618)などの有力テック企業も相次ぎ、開発に向けた動きを見せているが、20日にはこの列に、通信キャリアが加わった。
◆国有通信会社のChatGPTビジネス、主に「国有企業や政府」向けか
同日の香港市場では、チャイナ・テレコムが文章の記述や同義語の生成、多言語対話、長文要約などの初期機能を備えた「ChatGPT産業版」の開発を進めているとの報道を受け、同社株が3.8%上昇した。この報道によれば、チャイナ・テレコムはAIやビッグデータといったChatGPTの基層技術に対応できるだけの能力と技術レイアウトを備えているという。
この日はさらに、チャイナ・モバイルがインフラからコア機能までオープン型サービスを提供することができるAIプラットフォーム「九天」を自主開発しているとの情報も流れ、同社株が3%を超えて上昇。19年5月以来の高値を付けた。
ジェフリーズは21日の最新リポートで、通信キャリアが持つ膨大なユーザーデータを理由に、スマートシティーなどに照準を合わせたチャイナ・テレコムの「ChatGPT産業版」戦略を高く評価している。通信キャリアが保有する個人ユーザーは計10億人超で、他にブロードバンドユーザーが5億8000万人超。人口の特徴やロケーション、保有するスマホの機種、アプリ使用特性、閲覧しているウェブページなどを把握するという。
◆中国デジタル経済の“国家隊”、膨大なデータ保有で優位に
情報を検閲・統制している中国では、真にChatGPT型サービスの開発は難しいとの指摘もあり、2月前半には、新興企業Yuanyu IntelligenceがChatGPTの対抗馬として開発した「ChatYuan」が、公開後わずか3日でサービスを停止したとの情報が伝わった。また、本土メディアの21日の報道によれば、政府当局はChatGPTおよび類似サービスに対する監視・評価、違反への対応を強化。国内から海外へアクセス可能なChatGPTのプロキシサービス(外部ネットワークに接続する代行サーバー)に関しては、断固閉鎖するよう指示したという。
こうした環境の下、国有企業である通信キャリアは産業向けのChatGPT類似サービスに照準を合わせているもよう。ジェフリーズは「通信キャリアは主に国有企業と政府をターゲットとした類似サービスを開発することが可能。特定業務を対象とした言語生成アプリケーションを目指すのが合理的だ」と指摘している。
ジェフリーズはまた、中央政府によるAI開発への積極支援方針を理由に、「国有企業のITエコシステムの担い手」という点でも、通信キャリアを有望視している。実際、産業デジタル化やAI応用の点では独立系事業者より国有の通信キャリアが有利であり、例えばコスト面で優位にあると指摘。キャリア3社をチャイナ・テレコム、チャイナ・モバイル、チャイナ・ユニコムの順で選好し、投資判断をいずれも「買い」としている。
なお、本土の3大通信キャリアの魅力と言えば高配当だが、ここ数年で成長牽引役となったクラウドサービスなど、新興ビジネスの存在もキャリア各社の強み。『香港経済日報』によれば、ほかに現在株価のPBR(株価純資産倍率)が1倍に満たないという低バリュエーションも魅力の一つ(世界同業銘柄は約1.5倍)。同紙は中国デジタル経済の“国家隊”としての通信キャリアを前向きに評価し、一段の再評価の可能性を指摘している。