ロシア・ウクライナ戦争では戦局を左右しかねない存在としてドローン(UAV)が注目されているが、ここに来てニュースの焦点となっているのが世界最大手、DJI(深セン市大疆創新科技)だ。同社製ドローンはこれまで、ロシア、ウクライナ双方により軍事利用されてきたが、ウクライナ側で不正操作疑惑が浮上。同社は4月26日になって、「ロシアとウクライナでの事業活動を一時停止する」と発表した。自社製品の軍事利用を防ぐ目的であり、「民生用ドローンの軍事利用を支持しない」とのコメントを発している。
2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻以来、欧米企業は相次いでロシア業務を停止したが、中国企業はほとんど動きを見せておらず、中国大手がロシア向けの販売を停止したのは、これがほぼ第1号ケースになるという。ただ、DJIの場合は、製品が両国で兵器として利用されているという点で、他の多くの中国企業とはかなり事情が異なる。
◆ウクライナ側でDJIの不正操作疑惑、DJIは強く否定
ウクライナ側が主張している不正操作疑惑は、周辺で飛行している他のドローンを探知し、端末に通知する機能「エアロスコープ」が正常に動いていないという点。同国の特別通信情報保護局は「DJIはエアロスコープをオフにすることでロシアを助けている」として、使用中止を勧告。同国のフョードロフ副首相もDJIに対する批判的なツイートを行った経緯があった。
ロシア側ではDJI製ドローンは正常に運用されており、対ウクライナ攻撃に効力を発揮しているというのがウクライナ側の主張だ。DJI側はこの疑惑を強く否定。「当社製品は民用であり軍事利用には適さない」としたものの、世界的にはやや疑念が残るムードともなった。
こうした中、米ドローンメーカーが動き始めているもよう。『ウォールストリートジャーナス』紙によれば、シアトルのBRINCドローンズやシリコンバレーのスカイディオ(Skydio)などが、DJIの空白を埋めるために製品供給を加速させているという。
◆産業用ドローンでDJIのシェアが54%に急降下、個人向けは9割掌握
この件においては、DJI製品の軍事利用に焦点が当たったが、軍用のみならず、一部の産業用分野でも、中国製ドローンを敬遠するムードがやや強まる可能性も否定できない。米国はトランプ政権下にあった20年12月の段階で、DJIを「エンティティリスト」(禁輸リスト)に追加したが、それ以前から、欧米など一部ではセキュリテイー面の懸念がくすぶっていた。
調査会社のドローンアナリスト社が21年9月に発行した21年度版「ドローンマーケットセクターリポート」によれば、産業用(商用)ドローン市場におけるDJIの世界シェアは54%と、前年の70%から急降下した。米国における反中感情や、米政府機関による利用制限などが影響したもようだ。この分のシェアを奪ったのが、深セン道通智能航空技術の米子会社であるオーテル・ロボティクス(Autel Robotics)や米スカイディオ、仏パロットだったという。ただ、2位のオーテルにしても、シェアはわずか7%で、スカイディオ、パロットは各3%と、DJIとの差はまだまだ大きい。中国勢ではほかに、ユニーク(Yuneec、昊翔無人機)が7位にランクインし、上位入りをうかがう存在となっている。
一方、コンシューマー向けのドローンでは、DJIが引き続き圧倒的で、このリポートによれば、直近の世界シェアは実に94%。Mini SE、Mini 2、Mavic Air 2といった低価格、高コスパ機の人気と強力なライバルの不在で、圧倒的な王座を維持しているという。オーテルやハブサン(Hubsan:深セン市哈博森智能)も格安のドローン機の投入で追い上げを目指しており、まずは深セン勢の戦いといった様相だ。
◆7月初めに深センで第6回「世界無人機大会」開催へ
なお、中国では7月1−3日、「第6回世界無人機大会」「第7回深セン国際無人機展覧会」が開催される予定。組織委員会はこのほど開いた発表会で、空中デバイス(ドローンなど無人機本体)、地上インテリジェンス(ロボットなど)、クラウド(顔認識やビッグデータなど)、携帯端末という、全方位的な無人システムが、コロナ禍では最も優秀な兵士かつ最も優秀な道具になったと強調。パンデミックを機に加速した非接触化やスマート化の波に乗り、今後さらなる発展が期待できるとのメッセージを発した。
この場で示された数字を見ると、中国国内のドローン産業は21年に急成長し、全国で7000社を超えるドローン企業が民用無人機運航ライセンスを取得。総取引規模は870億元に達したという。中でもDJIが本社を置く深セン市ではドローン企業が1500社余り。21年の生産高が600億元弱に上ったとされている。