「中国のスタバ」ともいわれるラッキンコーヒー(LK)の不正会計事件を巡り、影響が広がっている。事件が伝わった先週2日の米ナスダック市場でラッキンコーヒーの米国預託株式(ADS)は前日比76%安と急落。翌3日の香港市場ではラッキンコーヒーの陸正輝会長が同じく会長を務める中国のレンタカー最大手、神州租車(
00699)が54%安と急落し、取引停止に追い込まれた。深セン市場でもラッキンコーヒーを大口顧客とする分衆伝媒信息技術(
002027)や関連商品の製造・開発を手掛ける浙江哈爾斯真空器皿(002615)が大きく売られた。神州租車はラッキンコーヒーとの業務取引はないと説明し7日に取引を再開したが、米ムーディーズは神州租車のコーポレート・ファミリー・レーティング(CFR)とシニア無担保債務の格付けを「B1」から「B2」に引き下げており、一段の引き下げも示唆している。
今回の事件は、会計事務所のアーンスト・アンド・ヤングが2019年12月本決算の監査作業を進める過程で不正会計を発見したことが発端で、会社側が特別委員会を組織し調査したところ、19年第2四半期から第4四半期の間、売上高22億元や関連費用などの水増し計上が見つかった。調査は現在も進行中で、委員会は劉剣最高執行責任者(COO)と一部社員が不正に関わったとの見方を示している。
◆急速に店舗網を拡大、2年でスタバを超える中国最大のコーヒーチェーンに
ラッキンコーヒーは福建省のアモイに本部を置き、18年1月に1号店を出店すると、北京の故宮内にも店を構えるなど急速に店舗網を拡大。19年末時点での直営店舗数は4507店に上り、わずか2年でスターバックスを超える中国最大のコーヒーチェーンに成長した。19年5月には米ナスダック市場への上場も果たし、中国国内では「中国の光」ともてはやされたが、今回の事件を機に評価は一転、「中国の恥」との厳しい指摘も見受けられる。
ただ、業界内では以前からラッキンコーヒーの急速な事業拡大を危ぶむ声が多く聞かれていた。店舗賃料や設備、人件費などのコストは高止まりが続いており、ハイペースな出店を維持するには大量の資金が必要になるため、何かしらの「操作」が行われているとの見方があった。ラッキンコーヒーの出店ペースは常識を大きく外れるものであり、機関投資家からの「調査」の対象にもなりやすく、今年2月には空売り業者のマディ・ウオーターズはリポートで、19年第3四半期の広告投入を少なくとも150%過大に見せかけていると主張していた。ラッキンコーヒーは2月に発表した公告で指摘をすべて否定したが、虚偽記載の疑いがあるとして複数の米法律事務所が集団訴訟を起こしている。
ラッキンコーヒーは不正会計の責任を劉COOと一部社員に押し付けようとしているが、業界関係者は、会社側が発表した公告や空売り業者のリポートなどを総合的に判断すると、会計処理には系統立った一連のプロセスが存在しており、劉COOの独断で行われたものとは考えにくいと指摘。実質的な支配者の同意の下、多くの経営陣が全面的に関わっていた可能性が高いとみている。
◆罰金や集団訴訟の支払いで破産や上場廃止の可能性も
5日付『鉅亨網』によれば、今回の件では、米国証券取引委員会(SEC)による調査だけでなく、米司法省が企業と責任者の刑事責任を追及する捜査を行うことも考えられ、和解が成立しなかった場合、取締役会メンバーは最長25年の禁固刑を受ける可能性もあると指摘。また、集団訴訟では賠償額が100億米ドルを超える可能性もあり、SECからの罰金も加われば、ラッキンコーヒーは最悪の場合、破産の危機に直面するとみている。業界関係者は01年に粉飾決算で破綻した米エンロンを引き合いに、SECからの罰金は莫大な金額になるとし、上場廃止の可能性もあると予想。すぐに上場廃止とはならなくても、投資家の信頼を裏切った代償は大きく、資本市場からの淘汰が進むとみている。また、今回の一件により、米国での上場を目指す中国企業や上場を果たした中国企業の印象も大きく損なわれており、すでに米国での新規株式公開(IPO)の棚上げを決めた企業もあるようだ。
なお、ラッキンコーヒーの米国上場に当たっては、中国国際金融(
03908)や海通国際証券(
00665)、クレディ・スイス、モルガン・スタンレーが共同で主幹事を務めており、落ち度の有無を問う声も広がっている。うち中国国際金融については、ラッキンコーヒーが空売り業者の標的となった際、リポートを発表し全力で援護していた経緯もあり、自身の上海証券取引所でのA株IPO計画に支障をきたす可能性も出てきた。IPOではA株4億5800万株を発行する予定であり、H株の6日終値(12.42HKドル)で計算した場合、調達金額は57億HKドル近くに上る見通しだ。中国国際金融の大株主には、テンセント(
00700)とアリババ集団(
09988)が第3位、第4位株主に名を連ねていることもあり、市場での注目も高い。証券監督管理委員会(CSRC)北京局のホームページには3日に中国国際金融の上場に向けた情報が開示されており、現時点で上場計画に変更はないとみられるが、今回の一件は事業拡大をあせったカフェチェーンの暴走にとどまらず、余波と片付けるにはあまりに重い衝撃を及ぼしている。