香港株式市場では17年に本土教育企業のIPO(新規株式公開)が相次いだが、18年も複数の同業銘柄がこれに続く見通しだ。私学経営銘柄として、香港上場の先陣を切ったのは14年に上場した中国楓葉教育(
01317)だが、16年に1社、17年には5社が香港メインボードにデビューし、年末には銘柄選択肢が7社に増えた。香港紙『明報』によれば、さらに5社が現在、IPOを申請中であり、順調であればまもなく最初のIPOが始動する見通しという。現時点ですでにIPO申請を行っている教育企業は、いわゆる「K12」課程(幼稚園から高校までの基礎教育課程)を手掛ける天立教育および博駿教育、大学・専門学校を経営する華立大学および新華教育、ほかに豪州の私学経営会社Top Educationとの顔ぶれとなっている。
◆「消費アップグレード」が追い風、私学市場の拡大は確実
中国本土で「消費アップグレード」の潮流が鮮明となる中、香港市場では引き続き、教育銘柄に対する注目度が高い。中国は伝統的に教育熱心なお国柄。義務教育レベルでは政策リスク(管理強化)がくすぶるとはいえ、市民の所得向上に伴い、良質な私立学校に対する需要は拡大の一途を辿る見通しだ。また、大学などの高等教育機関に至っては、明らかに不足しているのが現状。戸籍格差の問題も立ちはだかり、高校生が希望する大学に進学するのが非常に難しい状況にある。この先、私学市場のさらなる発展は確実。これに伴い、教育セクター全体の再評価が進むとの期待も大きい。
光大証券の報告によれば、中国の教育支出は16年に初めて3兆元を突破し、5年連続でGDP比4%を上回った。一方、米国の過去20年間の「消費アップグレード期」を見ると、教育消費指標の上昇率が150%強と、項目別でトップ。中国でも中産階級の拡大や消費アップグレードの加速、さらに私立教育市場の規範化が、教育支出の一段の拡大を後押しする見通しという。
◆時価総額最大の中国教育集団、世銀系IFCなどが戦略投資家に
香港メインボードには昨年12月、私立大学3校(学生数約7万6000人)を経営する中国教育集団が新たに上場したが、同社の時価総額はその後わずか2カ月余りで160億HKドルを突破。同業銘柄中の最大となった。IPOに当たっては世界銀行グループの国際金融公社(IFC)がコーナーストーン投資家の一つに名を連ねたが、その背景には卒業生の就職率の高さ(90%超)や、応用力重視の教育方針に対する高評価があったもよう。BNPパリバの朱泉星・中国投資銀行部董事は「中国教育集団に対する国際機関の出資が、さらなる教育銘柄のIPOを後押しする」との見方だ。
中国教育集団はまた、中国新高教集団(
02001)、睿見教育国際(
06068)とともに、3月5日付で「港股通」(香港ストックコネクト:本土からの対香港株投資)の投資対象リストに組み込まれる運び。過去には同リスト入りしたばかりの銘柄が急伸したケースもあり、例えば昨年9月に組み込まれた金斯瑞生物科技(
01548)はこれまでに220%超の大幅高を記録した。本土教育企業の上場先は今のところ、ほぼ米国と香港に限られ、本土A株市場には純教育銘柄は見当たらない。本土投資家視点で見た場合、事業の独自性や知名度の高さ、さらに市場拡大期待が教育銘柄の魅力であり、リスト入りに伴う本土資金の取り込みが一段高に寄与する可能性がありそうだ。現在すでに「港股通」対象銘柄となっているのは、中国楓葉教育、中国宇華教育(
06169)、民生教育集団(
01569)の3社。うち中国楓葉教育や中国宇華教育の人気が高いという。
◆学校新設や買収が焦点、中国新高教集団などが有望
個別銘柄の選択においては、学校新設や買収による事業拡大計画が注目ポイントの一つとなるが、この点では1月に新疆財経大学商務学院、洛陽科技職業学院の買収を相次いで発表した中国新高教集団の評価が高い。新疆ウイグル自治区と河南省洛陽市は高等教育機関(大学や大専)への進学率が明らかに低く、成長潜在力が大きい。DBSビッカーズは買収対象の2校の高成長を見込み、同社の利益全体に占める両校の比率が18年、19年に計15%、23%に上るとみている。ブルームバーグのコンセンサスを見ると、同社の18年、19年の予想EPS伸び率は前年比42%、26%。中国国際金融、CLSAアジアパシフィック・マーケッツはそれぞれ、同社目標株価を6.5HKドル、7.9HKドルに設定している(22日終値5.25HKドル)。
また、中国楓葉教育も買収攻勢を鮮明にしており、昨年12月には投資会社の出資持ち分55%の買収を通じ、深セン市の全寮制の小中高一貫校、伊思頓龍岡書院を傘下に収めると発表。これにより、初めて広東省に進出するとした。続いて1月には、海南省海口市で私立学校を運営する企業5社の全権益取得に合意し、省内の全寮制小中一貫校1校を含む教育施設5カ所を傘下に収めることが決定している。
このほか、上場から1年余りで240%の値上がりを記録した睿見教育国際は広東省での学校網の拡大に照準を合わせており、1年ごとに「2+2」(新設2校+買収2校)の事業拡大戦略を進める方針。現地政府当局との提携関係も同社の強みであり、この先、香港・マカオ・広東省経済の一体化を目指す「粤港澳大湾区」構想の恩恵銘柄となりそうだ。