米国で爆発的人気を呼んだ「eスポーツ」(対戦型ゲーム競技)が世界規模で広がりを見せており、中国市場もこの先、“黄金期”を迎える可能性が高まっている。最近では中国のゲーム最大手テンセント(
00700)がeスポーツ事業に関して5カ年計画を策定。1000億元規模の国内産業を創出する方針を明らかにした。国家体育局もこうした流れに同調し、12月に「17年全国電子競技公開賽総決勝」(NESO:総賞金額82万元)を開くとの通達を発している。世界的に見れば、eスポーツに使われるデバイスはゲーム専用の高機能パソコンやPS4などのコンシューマー機だが、中国で台頭しているのはスマホを使うモバイル競技。現在市場をリードしている米国とは別の、「モバイルeスポーツ」とも言える独自分野を中国が主導し始めている。
eスポーツは今のところ、日本では普及の兆しを見せてないが、世界的にはスポーツ界のネクストウエーブとも言えるホットな分野。17年4月にはアジアオリンピック評議会がアリババ・グループ(BABA)傘下のAlisports(阿里体育)と提携し、eスポーツを4年に1度のアジア競技大会の種目として採用すると発表した。正式競技となるのは22年の中国杭州大会だが、その前の18年のインドネシア大会においても、デモンストレーション形式でeスポーツ競技が行われる予定。この先、eスポーツが五輪に採用されるようになるかはまだまだ未知数だが、少なくともアジアオリンピック評議会による採用が、そのための第一歩となりそうだ。
◆国内ではテンセントの「王者栄耀」が一人勝ち
中国で人気が沸騰し始めているスマホ上でのモバイルeスポーツは、デバイス面の手軽さが魅力。「スマホ対戦が果たしてeスポーツと言えるのか」という当初の懐疑論をものともせず、16年に成長元年を迎え、ネット大手やライブ放送プラットフォームを含めた形で急速に進化した。中でも市場の飛躍をけん引したのは、テンセントの「王者栄耀」。MOBA(マルチプレイヤー・オンライン・バトルアリーナ:2つのチームに分かれて敵地攻略を目指すタイプのゲーム)にソーシャル要素を盛り込んだことで、圧倒的な人気タイトルとなり、成長局面入りしたばかりのモバイルeスポーツ市場で一人勝ちの様相となっている。
IT調査会社の艾瑞諮詢(iResearch)によると、国内のモバイルeスポーツ市場に見られるトレンドは、◇テンセントなど従来型開発・運営会社による競技部門の強化、◇「触手」「獅吼」「企鵝電競」といった垂直型のeスポーツプラットフォームの相次ぐ参入、◇「KPL」や「CMEG」など、プロゲーマー対象の競技イベントを主催する第三者企業の参入――など。こうした流れが市場拡大を後押しし、ひいてはゲーム市場全体の成長をけん引する可能性が高い。艾瑞諮詢によれば、国内eスポーツ市場は16年に前年比148%増の約130億元規模(広告収入や課金収入、その他イベント収入などを含む)。17年には同257%増の462億元へ、さらに急拡大する見通しという。
また、PCなどを使った世界のeスポーツ市場については、ゲーム調査会社Newzooが「17年に前年比41%増の6億9600万米ドル規模に達する」との予測を示している。20年にはさらに、現在比で約3倍の15億米ドルに達すると予想。世界の競技イベントの視聴者数については17年に3億8500万人、20年にはさらに5割増えるとの見通しを明らかにしている。
◆競技用デバイスの最大手、年内にも香港上場か
一方、eスポーツ用ゲーミングデバイスの世界最有力ブランドであるレーザー(Razer)が、「早ければ年内に香港株式市場でIPOを実施し、4億米ドルを調達する」との外電情報が伝わっている。同社は6月17日、香港コーズウェーベイに世界で6店目となる店舗を出店し、地元の注目を集めたが、これより前の5月には、長江和記実業(
00001)を率いる香港有数の富豪実業家、李嘉誠氏が、プライベートファンドを通じてレーザーに5000万米ドル超(20億HKドル弱)を投資し、傘下のハチソンテレコム・ホンコン(
00215)が展開する通信キャリア「3香港」と提携。香港で本格的にeスポーツ選手を発掘する計画を明らかにした。これにより、賞金獲得額で現在、アジアの2強となっている中国本土、韓国に香港が続く可能性も出てきた。
レーザーにはほかに、シンガポール政府系投資会社テマセクや米インテルも投資しており、この先のソフト開発事業の潜在力を含めて注目度は高い。主力のデバイス事業の競争激化が懸念材料とされるものの、香港でのIPOが実現すれば、改めてゲーム関連銘柄が市場の焦点となりそうだ。
香港の既存銘柄に目を向けると、eスポーツ関連銘柄はテンセント(
00700)を筆頭に、モバイルゲームの開発・運営を手掛けるIGG(
00799)、ソフト開発のキングソフト(
03888)、PC最大手のレノボグループ(
00992)など。うちレノボはすでにゲーム競技用タブレットPCの製造に着手済み。同社株価は最近の業績低迷もあって低調だが、11年から競技用タブレットを主力としてきた同業の微星科技(台湾上場企業)は、eスポーツ人気の高まりを背景に過去1年で260%以上の大幅高を記録しており、レノボの競技用部門の成長も期待されるところとなっている。