過剰生産問題の改善期待に加え、長江流域の洪水被害を受けた需要拡大観測の高まりで、香港・本土株式市場では資源・素材銘柄が焦点の一つとなっている。12日の香港市場では、ここ1カ月ほどH株指数をアウトパフォームしている石炭銘柄のほか、鉄鋼、セメントなどがそろって大幅に値上がりした。中長期的には経済成長減速に伴う需要萎縮懸念がくすぶるとはいえ、短期的には製品価格の上昇推移が期待できる状況。関連銘柄がこの先当面アウトパフォームする可能性が高まっている。
中国の長江中流および下流域では6月末から豪雨が続いており、被災地域はすでに湖北、湖南、江西、安徽などの各省に広がっている。李克強首相は先週、被災地に自ら足を運び、災害対策の強化を指示した。当局発表によれば、被災者は12省市で3100万人強を数え、直接的な経済損失は671億元。被災地区は広範にわたっており、ブルームバーグは「1998年以来最悪の洪水被害だ」と伝えた。こうした状況は短期的に中国経済にマイナスとなるが、中長期的には復興の過程において固定資産投資の伸びを後押しする見込み。華泰証券によれば、地域の再建が鉄鋼、セメントなどの建材需要を底上げし、その結果としてのインフラ投資の加速が石炭需要の押し上げに寄与する見通しという。
◆過剰生産是正が本格化、鉄筋価格などの底入れが鮮明
また、自然災害による復興需要とは別に、「過剰生産是正策の本格化」という政策要因が資源・素材セクターにとっては大きな支援材料となっている。政府は供給側改革に沿った政策任務の一つとして設備過剰の解消に本腰を入れており、◇鉄鋼と石炭の生産能力を向こう5年で15%を削減する◇16年中に粗鋼年産力4500万トンと石炭生産力2億8000万トンを削減する――などの方針を発表済み。セメントに関しても、国務院は20年まで新規設備の建設を認めないとし、同時に旧式設備の淘汰を進めることで業界統廃合を図るとした。中小メーカーが乱立する現状を改め、大手10社の合計シェアを60%前後に引き上げるとの目標を設定している。
この3セクターの過剰設備問題は数ある業種の中で最も深刻な部類だが、政府当局が本腰を入れたことで、最近では供給過剰感の改善の兆しが鮮明となり始めた。うち、鋼材の指標の一つ、鉄筋先物価格は今月12日に1トン当たり2491元と、1月の安値水準から43%の上昇率を記録(Wind調べ)。政府当局の過熱抑制策を受けて先物市場の過熱が落ち着き、4月の高値から反落する場面もあったが、5月下旬から再び回復軌道に乗った。ゴールドマン・サックスは旧式設備の淘汰や長江流域の洪水被害を受け、9月には鋼材需給が改善すると予測し、夏場以降、鋼材価格の一段の上昇が期待できるとしている。
このほか、セメント相場も一部地域で上向きに転じているもよう。中銀国際(BOCI)のリポートによれば、6月にはシーズンオフにもかかわらず、南部で平均価格が上昇。中でも広東省のセメント価格は年初来20%の幅で値を上げたという。実際には各業界の過剰生産問題の解消に向けた道のりは長く、経済成長減速を背景とした需要の先行き不透明感も強い。ただ、これまで長く続いた資源・素材セクターに対する慎重見通しは、ここに来て確実に好転しつつある。
◆業績急回復観測で馬鞍山鋼鉄に強気見通し
個別銘柄に目を向けると、鉄鋼に関しては馬鞍山鋼鉄(
00323)に対する強気見通しが目立つ。同社は16年6月中間期の黒字転換見通しを発表済みであり、うち4−6月期決算が6年ぶりの好業績となる可能性が高まったことなどが理由だ。ゴールドマン・サックスは同社を鉄鋼セクターのトップピックとし、「コンビクション・バイ(強い買い推奨)」リストに載せた。馬鞍山鋼鉄は早くから鋼材需要の減速を見込み、高付加価値製品の強化を進めてきた点が強み。過剰生産解消によるプラス効果も相対的に大きいという。一方、石炭銘柄を見ると、CLSAアジア・パシフィック・マーケッツは中国神華能源(
01088)に対して強気。6月上旬のリポートで、利益成長見通しを理由に目標株価を15.5HKドルに引き上げ、投資判断を「アンダーパフォーム」から「アウトパフォーム」にアップグレードしている。
また、セメントでは引き続き、大手の安徽コンチセメント(
00914)や、南部市場を主力とする華潤セメント(
01313)に対して楽観見通しが示されている。BOAメリルリンチは6月下旬のリポートで、資源・素材銘柄の目標株価を一斉に更新したが、セメント銘柄に関しては安徽コンチセメント、華潤セメント、北京金隅(
02009)、中国海螺創業(
00586)の4銘柄に対して「買い」の投資判断を付与するなど強気。目標株価を順に、29HKドル、3.5HKドル、3.5HKドル、22HKドルに設定している。